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あなたはこうやって結婚生活に失敗する(2)

はじめに)()()()()()()()()()(10) 男性編

結婚3ヶ月

あなたとご主人とのつき合いは9年ありました。学生時代からのつきあいです。そもそもの「はじまりは」と言えば、ゼミの先輩後輩の関係でした。あなたはご主人の、教授にも物怖じしない態度に尊敬の気持ちを持っていました。それが次第に恋愛感情へと発展したのです。二人がつきあっていることはゼミの間でも公認されるほど二人はお似合いのカップルでした。

先に卒業したのはご主人です。まだ学生だったあなたは社会人になったご主人を眩しく見ていました。そしてその1年後あなたも社会人になりました。あなたも社会人として立派に働くようになったのでした。

実は、あなたは卒業を間近に控えた頃、友人から

「卒業したらすぐに結婚するの?」

と聞かれたことがありました。しかし、あなたにそんな気持ちは全くありませんでした。それは、あなたは実社会の経験を積みたかったからでした。けれど、実はそれよりも大きな理由があったのでした。それはあなたたち二人の間の倦怠期です。

確かに、あなたはつきあいはじめた頃はご主人に夢中でした。そしてご主人が社会人になったときも尊敬していました。けれど、その頃から「燃える」感情が薄れていたのでした。決して「嫌い」になったわけではありません。ただ「燃えない」のでした。

あなたはちょうどその時期に社会人になり多くの大人の男性と接する機会が増えました。そのこともあなたの気持ちに影響を与えていたかもしれません。また、会社の同性の先輩と飲みに行ったとき、先輩がなにげなく漏らした言葉をあなたは忘れられませんでした。

「学生時代につきあい始めた恋って実らないのよね」

先輩が言うには、学生という狭い世界の中で選んだ相手は、所詮は社会という広い世界で出会う男性に比べたら魅力に欠ける確率が高い、ということでした。つまり選択肢が少ない中から選んだ男性に過ぎない、という意味です。事実、あなたも社会に出てご主人より魅力を感じる男性がいないではありませんでした。しかし、あなたはその先輩の言葉に反発心が芽生えてしまったのでした。

「絶対、学生時代の恋を実らせる!」

あなたの心に宿ったこの反発心はご主人と会うたびに心の中で大きくなっていきました。

正直に言いましょう。あなたはご主人以外の人とデートしたことがあります。第三者から見たら、それは「浮気」とか「二股」とかに映るかもしれません。しかし、あなたの中では「1番」は必ず今のご主人でなければならなかったのです。なにしろ、学生時代の恋愛を成就させると決めていたのですから。

そんなあなたですから、「結婚したい」などとは思いませんでした。「恋愛を成就させたい」とは思っても…。

また、ご主人も仕事が楽しく「結婚」の「け」の字も口にしませんでした。もしかしたらご主人もあなたと同じような体験をし、そしてその間あなた以外の女性とデートをしていたかもしれません。しかし、あなたはそのことについてご主人に尋ねたりはしませんでした。

とにもかくにもそのようにして中途半端な関係のままダラダラと月日は流れ9年が過ぎていたのでした。

そんなあなたたちが結婚する気になったのは年令が理由でした。あなたが女性の区切りである「30才」を目前にしていたからです。会社でのあなたの噂もあなたの心理に影響を与えていたかもしれません。いつの間にかあなたは独身女性の最高年令になっていたからです。だからと言ってあなたは「焦っている」気持ちでもありませんでした。単純に「そろそろ」という気持ちです。不思議なものであなたの気持ちは相手に伝わるものです。二人の間に、いかにも日本的な響きがある「以心伝心」という一面があって当然です。なにしろ9年もつき合っていた二人ですから。

また、ご主人はご主人で仕事の評価において世帯を持つメリットを感じはじめていた頃だったのです。

お互いの気持ちが固まったあと、あなたには少しの不安があったのも事実です。それは「ひとり暮らしの気楽さ」がなくなることです。実は、あなたが9年もつき合いながら結婚に踏み切れなかったのはこの「ひとりの気楽さ」を失いたくない、という気持ちもありました。

そんな気がかりな気持ちを抱えたままの結婚でした。

新婚旅行は優雅にヨーロッパ一周と豪華なものでした。あなたもご主人も「独身貴族」が長かったのですからそれなりに貯蓄はあったからです。つき合いが長いことによる倦怠期も新婚旅行が払拭してくれるのではないか、とあなたは心密かに期待していました。

新居は新婚に似つかわしい小奇麗なマンションに決めました。

さて、新婚生活がはじまりあなたは気分一新晴れやかな気持ちになることを期待していました。その1日目の夜、あなたはあることに戸惑います。

トイレの便座です。

夜、寝る前にトイレに行くと、トイレの便座が上がっていたのです。それはあなたがひとり暮らしをしていたときにはなかったことです。犯人はご主人です。あなたは便座を降ろして用を足しました。

不思議なことに、新婚旅行中はあなたは便座についての記憶がありません。高揚した気分が便座のことなど気にも留めさせなかったのでしょう。日常生活がはじまって初めてあなたは気づいたのでした。

翌朝、あなたは初めて二人分の朝食を作りました。二人分を作ることは新鮮でもあり、結婚したことを実感することでもありました。あなたが朝食を作り終える頃、ちょうどご主人が洗面所から出てきて二人で食べました。そのときあなたは、それまでのひとりで食べる朝食と違う雰囲気にうれしさも感じていました。

朝食のあと、あなたは洗面所へ行きます。お化粧をする前準備のためです。あなたは洗面所に入りますと、臭いに気がつきます。そこには男性の臭いが漂っていたのです。先ほどご主人が歯を磨き顔を洗っていたのですから当然ですが、あなたがひとり暮らしのときにはなかった臭いです。

あなたは洗面鏡の台を見ます。そこにはチューブの蓋が開いたままの歯磨き粉がだらしなく置いてありました。あなたはチューブの形を整え蓋を閉め元の場所に戻します。

このようにしてあなたは結婚生活を始めて1週間で「ひとり暮らし」と共同生活の違いを思い知ることになりました。それは、生活様式の違いが塵として積もることでした。

あなたは会社の昼休みに考えます。

「結婚生活って自分を抑えることなんだ」

そうです。あなたは9年間の独身生活で身についた生活様式がことごとく打ち破られることに困惑していたのでした。あなたは思い至ります。

9年間もつき合ってきてご主人のことをなに一つ知らなかった、と。

9年間もつき合っていたなら、それなりに相手の「いいところ」も「悪いところ」もわかっていそうなものです。あなたがいろいろな男性とおつき合いをしながらも最終的にご主人とゴールインしたのは、学生恋愛を成就させたい、という思いもありましたが、やはりなんと言っても「お互いを知り尽くしている」安心感という思いもありました。お互いの長所短所を知っていたほうが結婚生活がうまくいく確率が高くなるのは当然です。

しかし、なん百回、なん千回とデートをしていても別々に暮らしているのと、同じ家で暮らすのでは大きな違いがありました。たとえお泊りデートであったとしても、それは「日常生活」とは呼べないものでした。

結婚とは日常生活です。常日頃の生活が結婚生活です。些細なことを繰り返すのが日常です。あなたはその点を思い違いをしていました。

ある日、あなたは夕食の支度を済ませ準備万端、ご主人の帰りを待っていました。そこへご主人からメールがきました。

「ごめん、言うの忘れてたけど今日飲み会だった」

あなたはしばらくメール画面を見つめたあと、「了解しました」と返信しました。そして出来上がった夕食を見ながらため息をつき呟きます。

「ひとり暮らしだったらこんな無駄なことしないのに…」

ある日の朝、あなたは洗面所で歯を磨いていました。歯を磨きながらなにげなく洗面鏡の台を見ますと、いつもあるはずのご主人の歯ブラシがありません。あなたは洗面台の周りを見回します。しかし、ご主人の歯ブラシは見つかりませんでした。あなたは洗面所を出ると出勤する準備をしているご主人に尋ねます。

「ねぇ、あなたの歯ブラシは?」

「ああ、毛が開いてたから捨てた」

「今日、歯、磨いてないの?」

「いや、おまえので磨いたよ」

ご主人は急いで身支度をすると玄関に向かいました。あなたもご主人のあとを追って玄関まで見送りに出ました。そしてご主人に言います。

「わたしの歯ブラシを使うの、やめてね」

あなたの言葉に一瞬驚いた表情をしたご主人でしたが、「わかった」と出て行きました。

それから1週間ほど過ぎた夜。

あなたがテレビを見ていると、ご主人が下着を手にしてお風呂に入ろうとしていました。ご主人はテレビを見ているあなたに向かって話しかけます。

「前から言おうと思ってたんだけど、下着のたたみ方を変えてくれないか。どうも今のたたみ方がしっくりこないんだよね」

そういうとご主人はあなたの前に来て、たたみ方を見せながら言いました。

「俺はいつもこうやってたたんでたんだ。こうじゃないと着る気がしないんだよね」

ご主人がお風呂場に向かったあと、あなたはテレビを消しました。

あなたは結婚して2ヵ月が過ぎたあたりからご主人との会話がギクシャクしてるのを感じていました。9年間つき合っていた頃となにか違う雰囲気が漂っていたのです。あなたは心の塵が少しずつ溜まっていくのを自覚するようになっていました。

そんな気持ちが続いていたある日。あなたはご主人との間に漂う違和感を払拭しようとご主人の大好物のクリームシュチューを晩ご飯のおかずに決めました。あなたは腕によりを込めて作るために本屋さんでレシピまで調べてきました。デートをしていた頃、あるレストランでご主人がクリームシチューをおいしそうに食べていたからです。

帰宅したご主人はクリームシチューを見てとても喜びました。その日、あなたはワインまで用意していました。

ご主人は笑顔でクリームシチューを食べ始めると、しばらくしてマッシュルームを取り除き始めました。マッシュルームは、レシピで「おいしさを増すため」に特に勧めていた材料です。それを読んであなたはマッシュルームを今日のクリームシチューのこだわりにしていたのでした。そのマッシュルームをご主人は取り除いていたのでした。あなたはご主人に尋ねます。

「どうしたの?」

「うん、クリームシチューにマッシュルームは合わないんだよね」

あなたはご主人が取り除いたマッシュルームをひとつひとつスプーンで掬い自分のお皿に入れました…。

残業を終えて帰宅したある日。

マンションに近づくと居間の電気が点いているのが見えました。先にご主人が帰っているようです。家に入るとご主人がテレビを見て笑っていました。ご主人はあなたに気がつくとテレビを見たまま聞きました。

「今日の晩メシなに?」

あなたは食べ終えたカップラーメンが置いたままになっているテーブルを見ながら答えます。

「今から、あり合わせのもので作るわ」

ご主人は返事をする代わりにテレビを見ながら笑いました。

あなたたちはふたりで食事をしました。しかし、実質的にはひとりで食事をしました。なぜならご主人は食事中ずっとテレビを見ていたからです。

その日の夜。

あなたは部屋で洗濯物をたたんでいました。隣の居間ではご主人が缶ビールを飲みながらテレビを見ていました。相変わらずときたま笑っています。

あなたは自分の洗濯物をたたみ終わりご主人の洗濯物をたたみ始めてご主人の言葉を思い出します。

「たたみかたを変えて…」

あなたはご主人に教えられたやり方を思い出しながらたたみました。けれどきれいにたためません。あなたは幾度かたたみなおします。そして幾度目かのとき隣の居間からご主人の大きな笑い声が聞こえてきました。

あなたはご主人の洗濯物をたたむのをやめしばらく見つめていました。そしてゆっくりと立ち上がるとご主人のいる居間に行きます。ご主人は寝そべってテレビを見ていました。あなたはご主人に静かに声をかけます。

「ねえ…」

あなたの声にご主人は顔は向けずに声だけ発しました。

「うん…?」

あなたは続けます。

「わたしたち、元に戻ったほうがいいと思う…」

あなたこうやって結婚生活に失敗します。

生活様式のちょっとした違いが大きな違いになるのが日常生活です。そしてそのことをストレスに感じるなら、そのまま何十年も続けるのは不可能です。日常生活を侮ってはなりませぬ。

第2回終了。

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