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あなたはこうやって結婚生活に失敗する(3)

はじめに)()()()()()()()()()(10) 男性編
結婚1年

 

あなたは3年つき合ったご主人と結婚しました。友人たちは「あなたの結婚」を羨ましがっていました。あなたの結婚は「ほとんどの女性が望む理想的な結婚」とまで言っていました。

 ご主人は3人兄弟の末っ子でした。つまりあなたには義姉が2人いることになります。友人たちが「理想的」といったのは、あなたが姑ととても仲がよかったからです。結婚式でも姑は、義姉二人が聞いたなら「気分を害する」くらい、嫁の中で一番「気持ちが通じる」と誰はばかることなく話していました。

 あなたは結婚前からご主人の家に遊びに行っていました。たぶん、ご主人は当初から結婚を前提としてあなたを姑に紹介する意志があったのでしょう。実は、あなたも薄々感じてはいました。だからこそあなたは姑と話を合わしていたのです。けれど決して「無理をして」ではありません。あなたがストレスを感じない範囲で「話を合わして」いたのです。ですから、あなたも姑と一緒に時間を過ごすことに不快感はありませんでした。

 あなたがそうですから、当然姑にもその雰囲気は伝わります。姑が「嫁の中で一番」と言ったのはお世辞だけではありませんでした。それほどあなたと姑の関係は他人が羨むほどの「仲のよさ」を醸しだしていました。

 つき合っていた当時、ご主人の実家に遊びに行っていたのは月に3~4回ほどでした。この数字だけを見るとそれほど多くないように思う人もいるでしょう。けれど、よく考えると毎週行っていた計算になります。これはすごいことです。姑があなたを気に入ったのはこの遊びに行く頻度も関係あります。人間は年を重ねれば重ねるほど「慕ってくる人」に好感情を持つものです。あなたは意識したわけではありませんが、結果的に「慕ってくる人」になっていました。

 それに対して、ご主人のお兄さんたちのお嫁さんたちが姑の家に遊びに行くのは年に数える程度でした。この義姉たちは決して姑と不仲というわけではありませんでしたが、一定の距離を保とうとしているのは間違いありませんでした。義姉たちを擁護するわけではありませんが、この義姉たちの接し方は近年の嫁の普通の姿かもしれません。自分たちには自分たちの生活があり、姑たちの年代に合わせる必要はない、と考えていたのです。そんな義姉たちにとってあなたの行動は奇異に映ったかもしれません。結婚前に一度ご主人の実家で、長兄の義姉言われたことがあります。

「私たちの世代の結婚って、昔と違って家と家が結婚するって感覚はないわよね」

 あなたは義姉の言葉にある種の含みを感じましたが、愛想笑いで聞き流しました。

 

 そしてあなたたちは結婚後1年を終えようかとしていました。結婚後もあなたはご主人の実家に週に1回は通っていました。「通う」はおかしい表現ですね。「遊び」に行っていました。そのこと自体は結婚前となんら変わらないことですので特に意識することなく姑と接していました。しかし、姑はちょっと違うことを考えていたようです。

 数ヶ月前くらいから姑は将来のことを話すようになりました。それまではお互いの趣味の話やテレビの話などたわいもない話題でしたが、その頃から自分たち自身の将来についてをしきりと話すようになっていました。

 姑たちは狭いながらも一軒家に住んでいました。一応猫の額以上の広さのある庭もありました。今はそこに姑と舅の二人で住んでいます。それに対してあなたたちの住居は賃貸マンションでした。

「この家も私たち二人だけじゃもったいないのよねぇ」

「いずれどちらかが死んだら一人で暮らさなければならないし」

 このような言葉を聞くとき、正直あなたは、どのように返答してよいか悩んでいました。一応、そのたびにそれなりにうまく答えていましたが、姑の真意を計りかねていました。そこであなたはご主人に聞いてみます。

「どんなつもりで言ってるのかなぁ…」

 あなたの質問にご主人はテレビを見ながら第三者的な言い方で気のない返事をしました。

「そんな深い意味はないと思うけど、年をとると淋しくなるから。それじゃない。まぁ、年寄りの繰言、と思えばいいんだよ」

 あなたはご主人の他人事のような答えを聞くと、缶ビールを飲み干しました。

 

 その数日後、あなたは会社の同僚と食事に行きました。その同僚はバツイチで、その理由は嫁姑の対立でした。同僚はあなたの結婚をとても羨ましがっていたひとりで、あなたが姑と「仲がよい」ことを誰よりも喜んでいました。

「結局、結婚って当事者同士の関係より家と家の関係が重要な位置を占めるのよ」

 これが同僚の口癖でした。

 あなたはご主人にした質問と同じ質問を同僚にぶつけます。

 あなたの質問を聞き終えた同僚は、しばし考えた末、口を開きました。

「うーん、それ、同居を考えてるね」

 実は、あなたはその答えを予想はしていました。けれど、敢えて違う答えを探していたのでした。しかし、結局、答えは「それしか」ないようでした。

 あなたが少し落ち込んだのがわかったのでしょう。同僚は勇気づけるように言いました。

「わたしと違ってあなたは姑さんと気が合うから大丈夫よ。結婚式のときも言ってたじゃない」

 あなたは力なく答えます。

「そうよね…。わたしたち本当の親子のようにつき合えてるから」

 あなたは無理やり作った笑顔でワインを飲み干しました。

 

 ある晩、あなたは布団に入りながらご主人に尋ねます。

「わたし、おかあさんとうまくやっていけるかなぁ」

 先に布団に入っていたご主人は目を瞑ったまま答えました。

「今までだってちゃんとやってたじゃないか…」

 あなたは自分を納得させるように頷いて目を瞑りました。

 

 次にあなたがご主人の実家に遊びに行った日。

 あなたはいつものように、ご主人の実家の居間であなたが指定席にしている場所に座りお茶を飲んでいました。そこへ外出先から帰ってきた舅が入ってきました。

「おお、いらっしゃい」

 笑顔で言う舅にあなたも笑顔で言います。

「おかえりなさい」

 そこへ姑が台所からお茶を持ってきました。二人の会話を聞いていたのでしょう。満面の笑みで二人に話しかけます。

「面白い…。どっちがお客様かわからないわね」

 姑の言葉に舅が言葉を返します。

「ほんとだ。ハハハ…。でも、自然だったなぁ」

 今度は姑があなたに向かって言います。

「ほんと。それにあなたはその席がお似合いよ。まるでずっと前からウチにいるみたい」

 あなたも笑顔で答えます。

「わたし、図々しいですかね…」

 あなたがそう言うと3人で笑い合いました。

 舅が顔に笑いを残したまま答えます。

「いやいや、それくらいでいいんだよ。ウチの一番大切な嫁なんだから」

 あなたが気分をよくしたのは当然です。そこへあなたのご主人が買い物から帰ってきました。あなたはご主人に話しかけます。

「今、わたしのこと、すごく褒めてくれたのよ」

 ご主人は笑いながら座りました。四人が揃い仲良く会話が弾みました。そして、しばらくすると姑が少し真面目な顔つきであなたたちに話しかけてきました。

「前から言おうか迷っていたんだけど…、ねぇ、わたしたちと一緒に住まない?」

 

 結論を言いますと、あなたたちは同居することになったのでした。

 しかし、簡単に話が進んだわけではありません。なにしろ、あなたのご主人は男兄弟の3番目です。上に兄が二人もいるのです。しかもどちらも結婚して奥さんがいるのです。お兄さんたちにしてみれば、やはり心に「ひっかかるもの」があっても不思議ではありません。

 けれど、その「ひっかかり」を取り除かせたのは姑の一言でした。

「わたし、一番性格が合うのよ」

 姑の言葉に反論できる子供はいませんでした。

 かくしてあなたちは義父母と同居することになったのでした。もちろん、財産分与の話し合いも決まりすっきりとした形での同居となりました。

 

 あなたは同居が決まったとき、全く不安がなかったわけではありません。いくら結婚前からずっと遊びに来ていたとはいえ、同居となれば同じ屋根の下で暮らすわけですから、いろいろな場面で「意見の相違や戸惑うことがあるはず」と思っていたからです。けれど、あなたの不安を打ち消させたのも姑でした。

「あなたとならうまくやっていけそうな気がする」

 この一言でした。

 

 同居するようになり、しばらくの間はなんの問題も起きず、違和感も持つことなくあなたは過ごすことができました。

 あなたは少しずつ同居に対する不安がなくなっていく自分を感じ始めていました。

「取り越し苦労だったみたい…」

 あなたがそう思い始めていた頃、あなたは義父母の部屋にお茶を運んで行きました。姑たちはテレビを見ていました。たまに特集番組として放映されている「昔のヒット歌謡番組」です。二人は懐かしそうな表情でテレビに釘付けになっていました。姑があなたに気づきお礼を言います。そしてあなたが部屋を出ようとするときに舅が言います。

「あ、台所の棚の横におまんじゅうがあるんだ。持ってきてくれる?」

 あなたはちょっとだけ反発心を感じます。そんな大そうな反発心ではありません。「ちょっとだけ」の、あるかないかわからない程度の「反発心」です。なので、あなたは素直に返事をしておまんじゅうを探し持って行きました。ただ、それだけです。

 数日後、あなたは台所で座ってチラシを見ていると姑が入ってきます。そして棚のあたりを見渡していました。そのときあなたはチラシを見ていました。

 姑はなにかを探し出したようでそれを手に取ると台所を出ようとしました。そのとき振り返りあなたに言います。

「この前、ほら、テレビを見てるときお義父さんが『おまんじゅう」』って言ったでしょ」

 姑がここまで言ったところで、初めてあなたは姑のほうを見ました。姑は続けました。

「あの持ってきた『おまんじゅう』、実はお義父さんが食べたかった『おまんじゅう』じゃなかったの」

 姑が話し始めたとき、あなたはその日のことを思い出せずしばらく考えをめぐらしていました。そしてようやく思い出し、

「ああ…」

と答えます。すると、姑はさらに続けます。

「いいのよ。気にしないで。あなたは知らなかったんだから…」

 そういうとドアを閉め立ち去って行きました。あなたは姑が閉めたドアをしばらく見つめながら考えました。「なにを考えたかって?」。とにかく考えました。

 

 ある日。

 あなたが居間で新聞を読んでいますと、姑がやってきました。

「今、お義父さんのワイシャツにアイロンをかけてるんだけど、あなたの旦那様のワイシャツも一緒にアイロンがけやってあげるわよ」

 あなたが返事をする前に姑は居間をあとにしました。

 あなたは突然の姑の言葉に一瞬躊躇する気持ちが起きましたが、姑の「有無を言わせぬ」雰囲気にご主人のワイシャツを持っていきました。一応、お礼の言葉を言って姑の部屋を出ましたが、自分の部屋に戻りながら考えました。「なにを考えたかって?」。とにかく考えました。

 

 あなたはこのような「考える」出来事をなん度も経験しながら一年を過ぎたころ、なんと義父母たちと別居生活をしていました。もちろんあなただけの単身別居です。そしてさらに半年を過ぎた頃にあなたたちは結婚を解消しました。

 一般的に嫁姑の諍いというと、激しいののしり合いを連想します。しかし、あなたの場合は「ののしり合った」ことは一度もありませんでした。いつも姑が穏やかな口調で話しかけていたからです。そのような姑にあなたは「ののしる」きっかけさえ与えられなかったのです。つまりあなたにとって生殺し状態が続いていたことになります。生殺し状態が長期間続くとやはり人間は限界を超えてしまうのです。

 別居生活を始める前、あなたはご主人に自分の気持ちを伝えました。しかし、ご主人にはあなたの気持ちが理解できませんでした。あなたにとっての「考える」出来事が積もること自体がご主人には意味不能にしか感じなかったのでした。そんなご主人ですから、あなたの訴えを支持することは一度もなく、結局は姑たちの側に立つことになってしまいました。

 表立った対立はなくとも、精神的に追いつめられることはあるものです。そして、そうした感覚は、別々に住み自分の家から週に1度くらい遊びに行っていたときには決して生じるものではありません。

 

 あなたはこうやって結婚生活に失敗します。

 

 人間の心理とは、自分でも捉えきれない感覚があります。それは体験しなければやはりわかりません。「こんなはずじゃなかった」「こんなつもりじゃなかった」…。このような感覚に襲われることはあります。知識として知っていても、どんなに頭でわかっていても、それでもやはり体験して初めて本当の意味を知ることができます。
第3回終了。
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