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あなたはこうやって結婚生活に失敗する(5)

はじめに)()()()()()()()()()(10) 男性編

結婚3年

あなたは子供が成長し少しずつ手がかからなくなったことを喜んでいました。朝から晩まで子供に自分の時間を取られることに苛立つこともなくなりつつありました。このように書くとあなたがまるで母性本能がない冷たい母親のように思われますが、そうではありません。あなたは母親として充分、いえ、充分以上の働きをしてきました。それをこなせたのもあなたの母性本能が強かったからこそです。

子供が生まれたばかりの頃、あなたは自分の実家にも世話になりましたが、ご主人の実家にも大変お世話になりました。あなたの義父母はあなたにとても気を配り優しく接してくれました。そんな義父母を見ていますと、あなたは今のご主人と結婚して「本当によかった」と心から満足していました。

ただ一つ、気になることはありました。それは子供を連れて義父母の家に遊びに行ったとき子供の教育についてあなたの考えている方針と違うことを言ってきたことです。その頃はまだ子供も小さくそれほど大きな相違に発展することはありませんでした。あなたも子育ての方針が少しくらい違うことは、「年代の違い」があるのですからある意味当然とも思っていました。

あなたは一度、ご自分の実家でそのことについて話したことがあります。あなたのご両親はそんなあなたをたしなめました。

「ウチにとっては外孫だけど、あちらさんにとっては内孫だから『自分たちの孫』という意識は強いだろうし…。できるだけあちらさんの顔をたてるようにしないと…」」

あなたのご両親の言うことがあなたは今ひとつピンとはきていませんでした。義父母が『自分たちの孫』と思っていても、基本的には『私と主人の子供』であることが大前提になっているからです。

ある日、あなたたち家族はご主人の実家に遊びに行きます。その日はたまたまご主人のお姉さんも遊びに来ていました。ご主人より3才年上の義姉は8年前に大手企業に勤めるエリートと結婚していました。義姉の子供は7才で私立学校に通う小学1年生です。

食事も和やかに終わりくつろいでいるとき義姉がご主人に話しかけてきました。

「幼稚園はどうするの?」

ご主人は義姉には頭が上がらないようでした。それは今まであなたが見てきたご主人の義姉への接し方でわかります。どことなく自信なさそうで遠慮がちに話していたからです。

「まだ、先のことだから考えてないよ」

ご主人の返答に義姉は大げさに驚いたように言い返しました。

「なに言ってるの? すぐよ!」

ご主人は義姉の言い方にたじろいだように黙ってしまいました。二人の会話を聞いていた義父が言葉をつなぎました。

「そうだよ。子供の成長は早いぞ」

義母も続きます。

「やはり子供にきちんと教育を受けさせるのは親の務めだからね」

ご主人は3人に責められたように感じ、薄ら笑いを浮かべるだけでした。そんな弟を見て義姉はあなたのほうに向き直り言います。

「ねぇ、子供の教育って大切よね」

あなたはご主人のほうをチラッと見てから曖昧に答えるしかありませんでした。

「ええ、まあ…。そうですよね」

その日はそれ以上話が進展することはありませんでしたが、家に帰ってからもあなたもご主人も後味の悪い感じは消えませんでした。就寝の支度を整え布団に入りながら、あなたはご主人を見ます。ご主人はすでに目を瞑り寝息を立てているように見えました。それでもあなたは試しに独り言のように呟いてみせます。

「あなたのお姉さんって教育ママなのね」

あなたはご主人の返答を期待していませんでしたが、意に反してご主人は目は瞑ったままでしたが口を開きました。

「姉貴、昔からしっかり者だったから…」

あなたはご主人の横顔を見ながら電気を消しました。

数日後、あなたは義母から電話を受けます。

「この前の件だけど…」

あなたは最初、「この前の件」の意味がわかりませんでした。返事のしようがなく黙っていると義母が続けました。

「幼稚園に入る前に塾に通わせる人もいるそうよ」

この台詞を聞いてあなたはやっと「この前の件」の意味が理解できました。子供の教育のことです。あなたは一応返事だけはしました。

「そうなんですか。今はなんでも前倒しで始めるのが流行ってますものね」

あなたが答え終わる前に義母は続けます。

「パンフレットも幾つか集めてあるのよ」

義母の話によりますと、先日みんなで集まった数日後、ご主人の義姉がパンフレットなどいろいろな資料を集めて届けてくれたそうです。

「今度、取りにきてね」

あなたは姑の一方的な話しぶりに不愉快な気持ちになりはしましたが、そこは嫁と姑の関係、その難しさをあなたは実母から聞いていましたのでこらえることができました。

義母から、最近の幼児教育の実態や今後の展望などを聞かされたあと、漸く電話から開放されました。電話を切ったあとあなたは居間で楽しそうに遊んでいる子供を見ました。

その日、あなたはご主人が帰宅するなり昼間の義母からの電話について報告しました。あなたにとって「あまり気分がいいものではない」ことも含めて…。

ご主人はあなたの話を聞き終えると面倒臭そうに話ました。

「姉貴たちも困ったもんだよなぁ。でも姉貴、本気みたいだね」

あなたは他人事のように話すご主人に失望感を持ちます。残念ながらご主人はあなたの気持ちを察することはできないでいました。

それから1週間を過ぎた頃、ご主人が帰宅するとあなたに問いかけてきました。

「なぁ、お袋のとこになんか連絡した?」

突然の問いかけにあなたは戸惑います。

ご主人の話では、今日お義母さまがご主人の携帯に連絡をしてきたそうです。あなたが「全然連絡をくれないこと」を遠まわしに責めていたようでした。ご主人は不機嫌そうな表情で続けます。

「前に話してた塾のパンフレット、あれもらいに行ってきてくれよ」

あなたは自分の気持ちを正直に話します。

「わたし、塾は必要ないと思うの」

ご主人はネクタイを外しながら言います。

「そんなのどうでもいいんだ。ただパンフレットをもらいに行けばお袋も気が済むからさ」

ご主人の言葉にあなたは思いました。

「『どうでもいい』なら行く必要がない…じゃない」

あなたは心の中で「思いました」が口に出しては言いませんでした。あなたのご両親の忠告が頭に浮かんだからです。

結局、ご主人に押し切られる感じで次週の水曜日に義母のところへ行くことになりました。しかし、あなたは本当は気が進みません。

当日、あなたはお子さんを連れて重い足取りで義母宅へ出向きます。お義母さまは笑顔で迎えてくれました。ご主人に「催促の電話をしたこと」などなにもなかったかのように…。

お義母さまの話に頷きながらもあなたは少しの抵抗を試みます。例えば、お子さんに向かって話すようにして自分の考えを婉曲に義母に伝えました。

「ねぇ、塾なんか行かなくてもいいよねぇ」

さすがはあなたのお子さんです。まるであなたの意図がわかるかのように大きく頷き返事をしました。それを見たお義母さんはあなたのお子さんを翻意させるかのように話します。

「それはお母さんの考えよねぇ。塾に行ってると幼稚園でも優等生になれるのよぉ」

お子さんはお義母さんの言葉にも頷きました。まるで嫁と姑の反目を生じさせないように気を使っているかのようでした。さすがはあなたのお子さんです。

あなたはわかっていました。義母の話が義姉の受け売りであることを。

親族が集まった席で、義姉がことあるごとに塾の重要性を義母に吹き込んでいる場面を見ていたからです。

義母は延々と塾の重要性をあなたに話して聞かせました。それに対して、あなたは幾度か婉曲的に塾の不必要性を訴えました。もちろんあなたの考えを受け入れる義母ではありませんでした。

結局、2時間ほどの在宅だったでしょうか。なんとかその日は表立った対立を避けつつ帰宅することができました。そして、帰りの電車の中で疲れがドッと出たことはあなたの予想どおりでした。

それからまた1週間後、ご主人が遅い晩ご飯を食べながらあなたに話しかけてきます。

「どの塾にするか決めた?」

あなたはご主人の話し方に不信感を持ちます。「塾に行くこと」が既成事実のような話し方だったからです。あなたは反論します。

「まるで塾に行くのが決まったかのような言い方ね」

あなたの話し方が嫌味っぽかったからでしょうか。ご主人はあなたの反論に口調が強くなりました。

「その言い方はなんだ!」

あなたもご主人の強い口調に心穏やかではいられませんでした。

「あなたこそ、なによ!さっきの言い方」

ご主人が、これまでにあなたに対して不満を持っていたことをあなたは感じていました。その不満があなたへの強い口調とさせたのでしょう。しかし、あなたも日ごろのストレスが溜まっていました。先日の義母宅訪問以来あなたは毎日を悶々と過ごしていたのです。

「なぜ、義父母が私たちの子供の教育について干渉してくるのか」

これがあなたのストレスの根本となっていました。怒りが怒りを誘引ことがあります。あなたは先ほどの自分の言葉が引き金を引いてしまいました。

「あなたしっかりしてよ! 自分の子供の教育にあなたの実家が口を挟むのを黙って見過ごすつもり! それでもあなた親なの!」

世の中には売り言葉に買い言葉があります。自分の実家について非難されたことがご主人の引き金を引きました。

「ふざけるな! ウチの親はおまえが教育にだらしないから心配して言ってくれてるんだろ! 感謝されても非難される覚えはないぞ!」

この日の言い争いは1時間以上続きました。その夜、ご主人は居間のソファに寝ました。翌日、あなたが目覚めるとご主人は会社に出かけたあとでした。

言葉は不思議なコミュニケーションの道具です。ときに人を癒し、ときに人を傷つけます。そして人を傷つける言葉は必ずや心のしこりとなって残ります。得てして言ったほうは忘れてしまっても言われたほうはずっと心に刻みつけているものです。

これがきっかけであなたはご主人の義母からも叱責され、そして本来ならあなたの盾になってくれるはずのご主人も義父母の擁護に回りあなたは孤立してしまいます。

数度の義父母との言い争いのあと、ご主人は自宅に帰らない日が度々あり、ついには全く帰らなくなりました。数週間後、そのご主人から電話がかかってきます。

「俺たち、将来的に続かないと思うよ…」

ご主人からの電話を切ったあとあなたは今回の争いを思い返します。きっかけは子供の塾のことでした。たったそんなことで夫婦の間に亀裂が入るなんて…。

あなたこうやって結婚生活に失敗します。

たかが塾、されど塾です。たかが教育ですが、されど教育です。子供をどのように育てるかはそれぞれの人生観により決定されるものです。そして人生観は育った環境によって形成されます。育った環境が違う二人が子育てをするとき、折り合いをよほどうまくつけられないなら決定的な破滅を向かえるでしょう。

第5回終了。

はじめに)()()()()()()()()()(10) 男性編

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