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あなたはこうやって結婚生活に失敗する(10)

はじめに)()()()()()()()()()(10) 男性編

結婚35年

あなたたち夫婦が育てあげた二人の子供たちも結婚し独立したあと、あなたはご主人と二人きりで過ごしています。子供たちが小さかった頃は子供を育てることに必死になり、学校に通うようになると進学のことで頭を悩ませ、社会人になったあとは良き伴侶とめぐり合うことを祈り、それぞれの時期を精一杯生きてきました。

ご主人はビジネス戦士として7人の敵と戦い、あなたは家庭を守るべく内助の功を発揮して今の生活にたどり着くことができました。あなたは過去を振り返り自分の努力に対して自負する思いがあります。ただ、少しだけ今の生活に曇りがかかっているのが気がかりでした。

原因はあなたとご主人の二人きりの生活です。かつての企業戦士が一日中、家の中で休息していることです。

定年退職を迎えたご主人はご自宅に戻ってきました。現役時代は家にいる時間より会社にいる時間のほうが多いのが普通でした。つまり、自宅で過ごす時間はわずかしかなかったということです。それは取りも直さず、夫婦が時間をともにすることが少ないことでもありました。ビジネス戦士はみな同じだと思いますが、朝早くに家を出て帰宅するのは深夜です。ときには翌日になることもありました。土日と言えども接待がありゴルフや出張など在宅している時間は極端に少なかったのです。

そんなご主人が家にいるのです。退職した当初、あなたは戸惑っていました。結婚生活35年を迎えようかという夫婦ですが、一日24時間、ずっと一緒にいることに慣れていなかったからです。

退職後、平日に初めてお昼ご飯を二人で食べた日のことが忘れられません。それはご主人も同じだったようで台所でテーブルを挟んで二人して向き合ったときは「気恥ずかしさ」さえ覚えました。黙って食べるのもおかしな気分ですのでなにか話しかけようとするのですが、共通の話題が思い浮かばないのです。なにかぎこちない会話になっていました。

退職後1週間を過ぎた頃からご主人は昼食を外食するようになりました。ご主人も平日の昼間に家にいることに気まずい空気を感じていたのでしょう。

それから1ヶ月を過ぎた頃、あなたはお友だちが事務局長をしている団体のボランティアをご主人に勧めてみました。あなたが勧めた当初、ご主人は迷っていましたが、あなたのお友だちが言った

「ビジネスマン時代の経験と知恵を社会に活かしませんか?」

という台詞で参加することにしました。

あなたの「勧め」に最初は乗り気でなかったご主人でしたが、お友だちの台詞を聞いてそれなりに期待もしていたようです。初めて参加する日の前日は少しばかり興奮している様子がうかがわれました。

しかし、最初の期待とは裏腹にボランティアを2週間でやめてしまいました。その後しばらくして、ご主人は現役時代につき合いのあった会社で嘱託として週3日働くようになりました。「働く」とは言ってもお給料は微々たるもので報酬を得るためというよりは「出勤する」という行為をしているようなものでした。

ご主人の退職時の肩書きは部長でした。一応世間的に名の知れた大学を卒業したあと東証1部上場の会社に就職しました。その会社は学閥があることで有名だったのですが、ご主人はその力で部長まで出世していました。嘱託として再就職できたのも現役時代の肩書きがモノをいいました。それは会社の元部下に再就職先を依頼するときのご主人の強引な話しぶりでわかりました。

実は、ご主人がボランティアを2週間でやめてしまったのはこの「部長」という肩書きが関係あります。ご主人はボランティアから帰ってくるといつも不満を口にしていました。ボランティアの組織として問題点が多いことを非難めいて指摘していました。ご主人にしてみますと、組織を動かすシステムが全く機能していないように見えたからです。さらにご主人を不快にさせたのは、ご主人の意見がほかのボランティアに受け入れられないことでした。

「どうして核心をついた俺の考えが採用されないのか納得できない」

ご主人は一部上場の会社で働いていた当時のノウハウをほかの人たちに「教えてやっている」という感覚でした。現役時代は会議ではほとんど自分の意見が通っていました。たまに反対意見を言うライバルがいても必ずやり込めていました。ご主人は自分自身に対して絶対の自信を持っていました。そしていつもご主人の意見が採用されていたのでした。

あなたはボランティア団体に対するご主人の不満を聞かされて少しの不安を持っていました。あなたはボランティアの事務局長を務めていたお友だちに「ご主人のボランティアぶり」をそれとなく尋ねてみました。お友だちは言いづらそうに話してくれました。

「ご主人、周りの人たちから浮いてるの…」

あなたは、それ以上話を聞く必要がありませんでした。

ある日、ご主人と車で大型スーパーに買い物に行った日のことです。

あなたが食品を選びながら歩いているとき、ご主人は最初はうしろについて歩いていました。しかし、やはり途中から飽きたのでしょう、いつの間にかいなくなってしまいました。あなたの正直な気持ちとしては「ホッと」していました。あなたは以前のようにひとりで気ままに歩き回ったほうが気分が楽だったからです。ご主人にただうしろをついて回られるのはやはり鬱陶しい気分になります。

あなたが買い物を終えレジに並んでいますとサッカー台のうしろにご主人の姿が見えました。60才を越えた男性がひとりでただ立っている姿はなにかしら異様なオーラを発します。そのオーラが、ご主人の顔の表情からきているのをあなたはわかっていました。ご主人は憮然とした顔をしていたのです。

レジに並びながらご主人を観察していますと、ご主人がテキパキとサッカー台の周りを動き回っているお店の従業員を見ているのに気がつきました。エプロンを首からかけ腕に「案内係」と書いた腕章をつけている男性従業員の動きを目で追っていました。年令はご主人と同じくらいでしょうか。キビキビと動きお客様が使い終わった買い物籠を慣れた手つきで片付けているさまは心地よいものがあります。お客様に声をかけられると笑顔で対応する姿も清清しいものがありました。

一般的に、企業戦士として活躍している男性ほどスーパーなどで買い物をした経験がないものです。そうした煩わしいことは奥様に任せていることが多いからです。しかし、「煩わしい」のが理由だけではありません。心の奥底には「買い物のような単純な行為に時間を費やすこと」を見下している気持ちが働いていたからです。能力のある人間は「もっと高度なことに時間を費やすべき」と考えているからです。

あなたは日ごろからそのようなニュアンスの台詞を聞かされていました。そのようなご主人ですので、退職後にスーパーという「一般消費者の世界」を体験することはとてもいい経験になるとあなたは考えていました。できることならカルチャーショックを受けてほしいとまで思っていました。

そのご主人がスーパーで働いているご主人と同年代の男性従業員が動く姿を目で追っているのです。あなたは、ご主人が驚きと尊敬の眼差しで従業員を見ていることを期待していました。

帰りの車の中であなたはご主人に尋ねます。

「あなたが目で追っていた男性従業員の人、あなたと同じくらいの年令よねぇ」

ご主人は、あなたが自分を見ていたことに少し驚いたふうでした。

「あの年でああいうところで働いているのは惨めだよなぁ。俺にはできないな、みっともなくて」

あなたの期待に反して、とても悲しい感想です。あなたは景色を眺めながら反論します。

「そうかしら。偉いんじゃない…」

「あんなにペコペコお辞儀ばかりして『偉く』ないだろ。やっぱり士農工商だよな。俺は、現役時代は『武士』だったから」

あなたはご主人の横顔を見つめました。

ご主人と過ごす時間が増えあなたが少しずつ息苦しさを感じ始めていたある日。

晩ご飯のあと、ご主人と二人でテレビを見ていると番組では「ペットの病気」を特集していました。

番組の中で、出演している獣医がシラミについて説明していました。

「シラミは寄生虫の一種で、別の動物の体内や体表に住みついて生活し、その動物から栄養を吸収し、生きる生物のことをいいます」

画面から流れてくる獣医の説明を一緒に聞いていたご主人が急にあなたのほうを向き笑いながら言いました。

「おまえみたいだな」

あなたは意味がわからず思わず「えっ?」と声を発しました。

ご主人は続けました。

「おまえは俺に住みついて生活してるからシラミと一緒だ、って言ってるんだよ」

そう言うと大声で笑いだしました。あなたはニコリともしません。かといって怒りの表情も顔に出しませんでした。ただご主人に冷たい視線を注いでいました。

その夜、あなたは一人暮らしをしている姉に電話をしました。

「今夜から泊めてもらっていい?」

あなたはこうやって結婚生活に失敗します。

例えなん十年結婚生活をともに過ごしていようと、お互いに満足できるパートナーであったかどうかは判断できないかもしれません。社会人として現役で働いている期間は仕事に時間を取られ、夫婦がともに過ごす時間が極端に少ないからです。このことは、夫婦の証を試される機会が少ないことを示しています。

結婚生活が短かろうが長かろうが、夫婦の証を試される機会があったとき、パートナーに失望させられることがあったならその結婚は解消したほうがよいかもしれません。もし、パートナーがあなたに対して「人間として貶めるような発言」をするなら夫婦生活を営んでいる価値がありません。

第10回終了。

はじめに)()()()()()()()()()(10) 男性編

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