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あなたはこうやって結婚生活に失敗する(16)

11)(12)(13)(14)(15)(16)(17)(18)(あとがき) 女性編

結婚22年

おめでとうございます。あなたは奥さんと結婚して22年過ごすことができました。この事実は、紛れなくあなたが必死に努力を重ねてきたからにほかなりません。一生懸命仕事に励み、生活費を稼ぎ、それをなんの疑いもなく家族のためにつぎ込み、そして当然のごとく家事も分担し、浮気をするでもなく賭け事にのめりこむでもなく、休日を平凡に過ごし、ただひたすら地道に生きてきた結果です。あなたは家族に、特に奥さんには感謝されこそすれ虐げられる理由はこれっぽっちもあるはずがありません。あなたは家族の大黒柱として立派に役割を果たしてきました。

今から22年前、あなたと奥さんはお互いに惹かれ合い愛を育んで結婚に至りました。当時、奥さんはなによりもあなたを優先させあなたのために尽くすことが生きがいでした。そして、それにあなたも応えるだけの愛情を注いでいました。現在はと言えば、20年も時が流れていますので「当時ほどの愛情を持っているか」と問われれば確かに少しは減ってはいます。しかし、だからといってそれまでの22年間に積み重ねた愛情が些かも否定されるものではありません。

そんな22年間を経た日を過ごしているあなたですが、最近少し不満に感じることがあります。それは奥さんのあなたに対する接し方です。以前に比べて「粗雑」なのです。もっとわかりやすく言うなら、あなたを「軽んじて」いることでした。

例えば、一緒にスーパーに行ったときあなたが食べたい食材を言うと、わざとそれをはずしたおかずを作ったりしていました。あなたは、最初は単なる「偶然」かと思っていました。しかし、そうしたことがあまりにも続くので、あなたは奥さんが「故意」であることに気がつき始めていました。

また違う日に、スーパーに一緒に行ったとき、奥さんはあなたに2つの食材を示しながら「どっちがいい?」と聞いてきました。あなたがそのうちの1つを選ぶと、必ず「でもね」と言いあなたが選んだのと違うほうの食材を買うのでした。こうしたことも1度や2度ではなく毎度のことでした。あなたは心の中で思います。

「どうせ、いつも俺が選んだのと違うものを買うんなら、わざわざ俺に聞くな!」

しかし、あなたは口に出して言うようなことはしません。なぜなら「大人気ない」からです。

いつからでしょう。あなたは晩ご飯のおかわりを自分でするようになっていました。それは、奥さんに「おかわり」をお願いすると奥さんがあからさまに「不愉快な顔」をするようになったからです。そして、終には「自分でやって」と言われる始末でした。

また、いつからでしょう。奥さんは晩ご飯のときにあなたが飲む「お茶」も用意しなくなりました。あなたは晩ご飯を食べるとき、席に着く前に自分でお茶を入れるのが慣わしになっていました。奥さんは、晩ご飯の支度をするだけで自分の役割は終えている、と思っているようでした。それ以上のことはあなたが自分でやるのが当然と考えるようになっていました。22年前、あなたの身の周りのことをかいがいしく世話をすることが生きがいだった奥さんはどこかに消えていなくなっていました。

奥さんは「あなたに尽くすこと」をしなくなりました。このことは奥さんが「男女平等」を主張しているのかもしれません。今の時代は「亭主関白」などという言葉は死語となっていますし、男性でも家事に協力するのは当然という世の中になっています。ですので、奥さんがあなたにお茶を用意しなくてもそれはあなたに対する愛情が薄くなったこととは関係ないかもしれません。

しかし、あなたには腑に落ちないこともあります。それは、奥さんが「あなたのお茶は用意しません」が、息子さんが晩ご飯のときに飲む「ミネラルウォーター」は用意をすることでした。

「どうして夫のお茶は用意しないのに、息子のミネラルウォーターは用意をするのか?」 それがあなたの最近の不満でした。

あなたは決して、家父長制度を声高に叫ぶタイプの人間ではありません。学生時代も運動部に属していたわけでもありませんし、儒教の影響を受けたこともありません。あなたは家庭でも民主的な父親でした。娘や息子を頭ごなしに叱りつけることもしなかったですし、奥さんを見下すような態度をとったこともありません。奥さんの気持ちを最大限に尊重し家族みんなで仲良く暮らすのがあなたの考える理想的な家族でした。

ある日、あなたは奥さんと二人で晩ご飯を食べていました。たまたまその日、娘さんは友だちと外で食事をすることになっており、息子さんはまだアルバイトから帰ってきていませんでした。元々、息子さんはほぼ毎日バイトが終わるのが遅く土日を除いては一緒にご飯を食べたことがありませんでした。普段から平日は奥さんと二人きりで食事をしていたのです。

その日のおかずは「肉じゃが」でした。あなたは「肉じゃが」が大好物というわけではありませんが、好きな部類のおかずでした。あなたの大好物はお肉です。お金さえ余裕があったならあなたは毎日でも分厚いお肉を食べるでしょう。それほどお肉が好きでした。

しかし、我が家が贅沢を言えるほど余裕がある家計でないのはあなたも承知していますので「肉じゃが」でも「充分立派なおかず」と考えていました。ですので、あなたはなんの不満も感じず、寧ろ幸せを感じながら晩ご飯を食していました。

あなたはご飯のおかわりをするために食卓から立ち上がり炊飯器の置いてあるキッチンに行きます。ご飯をよそい、なにげなく炊飯器の横を見ると、ステーキが1枚乗っているお皿を見つけます。お皿にはラップがしてありました。あなたは一瞬、奥さんが「出すのを忘れた」のかと思いました。しかし、1枚しか乗っていない意味に気がつきます。あなたは奥さんのほうを見ました。奥さんはテレビを見て笑っていました。あなたはなにも言わずに席に戻ります。

夜、あなたは居間でひとりで新聞を見ていました。そこへ息子さんが帰ってきます。奥さんが猫なで声で「すぐに食べる?」と尋ねているのが聞こえてきました。

しばらくして、あなたは息子さんが晩ご飯を食べている台所に向かいました。台所の食卓では息子さんが食事をしている最中でした。向かいの席には奥さんが座り息子さんが食べている様子をうれしそうに見ていました。あなたは水を飲みにきたように装いながら食卓の横を通ります。通り過ぎながらあなたは食卓に並んでいるお皿を確認します。食卓には、「肉じゃが」のお皿のほかに、あなたがご飯のおかわりをしたときに見つけた「ステーキが1枚乗っていたお皿」もありました。

ある日。

あなたはお風呂からあがり居間でビールを飲んでいました。あなたはつまみになるものを探しに台所に行きます。奥さんがお米を洗っていました。あなたが、普段お菓子をストックしておく戸棚の扉を開けると、奥さんがあなたのほうに振り返ります。あなたは棚の中を手探りして「イカの燻製」があるのを発見します。あなたがそれを手に取ると、すかさず奥さんから声がかかります。

「あ、それあなたのじゃないから」

あなたはイカの燻製をしばし見つめ、そして棚に戻します。

ある日曜日。

あなたは奥さんの晩ご飯の買い物につき合わされます。理由は、その日はお米を買う予定だったからです。お米はいつも10kgを買っていました。その10kgを持つのが役目です。

その日の晩ご飯はカレーライスにすることになっていました。実は、あなたは普段のカレーライスの味に不満を持っていました。あなたは辛目のカレーが好きですが、奥さんの作るカレーはいつも甘めでした。理由は息子さんが辛目のカレーが苦手だからです。

奥さんがカレーの棚で商品を選んでいるときに、あなたは思い切って言ってみます。

「たまには辛目の味にしてよ」

奥さんはすでに甘めのカレーの箱に手を伸ばしていました。

「辛目が好きなのはあなただけなのよ。いつもと同じでいいの」

あなたは後ろ髪を引かれる思いで、辛目のカレーが並んでいる棚をあとにします。

あなたはビールも飲みますが、甘党でもあります。特にケーキ類には目がなくその中でもイチゴショートケーキが一番好きでした。

ある日。

あなたは仕事から帰ってきたあとミネラルウォーターを飲むために冷蔵庫を開けました。すると、あなたの好きなイチゴショートケーキがありました。あなたはニンマリします。

その日の晩、あなたは晩ご飯を食べたあと新聞を読み、しばらくして奥さんのいる台所へ行きます。あなたはショートケーキのことにはなにも触れずコーヒーを入れます。奥さんはあなたがコーヒーを入れるのを見ていました。あなたは奥さんの口が開くのを期待していました。しかし、奥さんはなにも言わず台所を出て行ってしまいました。あなたは奥さんのうしろ姿を目で追いはしましたが、けれどなにも言いませんでした。ただ、冷蔵庫の扉を見ました。

夜遅く、あなたがひとりで居間でテレビを見ています。奥さんは寝室でひとりでテレビを見ています。しばらくすると、息子さんが帰ってきました。奥さんが台所に向かったのがわかりました。息子さんの晩ご飯の用意をしているようでした。息子さんが食べ終わった頃、あなたは耳を澄まします。そして、あの音を聞き逃しませんでした。

冷蔵庫の扉が開いて、それから閉まる音…。

翌朝。あなたは仕事に出かける前に冷蔵庫を開けます。そこには最早イチゴショートケーキの影も形もありませんでした。

ある日。

その日の晩ご飯はおでんと焼肉でした。あなたはどちらも大好物です。あなたは心の中で喜びます。

あなたがおでんの中で一番好きな具は「スジ」です。あの噛んだときのカリカリとした歯ざわりがなんとも言えずおいしいのでした。あなたが「スジ」が大好物なのはもちろん奥さんは知っています。けれど、ここ何年もおでんに「スジ」が入っていたことはありません。「スジ」が好きなのはあなただけだったからです。以前に一度「スジを入れるように」お願いしたことはあります。そのときの奥さんの台詞は

「うん。そのうちね」

でした。

その日、「ない」とはわかっていても、あなたは鍋の中を探します。スジ、スジ、スジ…。いくら探してもスジはみつかりません。あなたは鍋の中を箸で彷徨いながら奥さんの顔を見ました。奥さんは素知らぬふりで鍋からチクワをお皿にとっていました。

あなたはスジはあきらめ焼肉を食べようと思いました。あなたは焼肉を取ろうとして気がつきます。焼肉のお皿があなたの一番遠い位置、そうです。息子さんの席の前に置いてあったのです。あなたが焼肉を取るためにお尻を少し浮かせ上体を前に傾け右手を伸ばすと息子さんが気がついてくれました。息子さんは焼肉を1枚箸でつまむとあなたの取り皿に乗せてくれました。あなたは息子さんに同情されたのでした。あなたは上体を元の位置に戻すと身体中に虚しさが沸き起こってくるのを感じます。そのとき奥さんが話しかけてきました。

「今日は、あなたの好きなものばかりでしょ」

あなたは黙って頷きました…。

その日の夜。

あなたは台所でひとり寂しくお茶を飲んでいます。そこへ奥さんがお風呂上りに入ってきました。あなたを見かけると、声をかけます。

「あなた、そこにあるお菓子食べないでね。それ、子供たちが好きなものだから」

あなたは目の前の箱に入っているお菓子を見ます。

「ああ、食べるつもりないから」

奥さんは安心したように台所を出ようとしました。そのときです。なぜだかわかりませんが、あなたは「言わなければ」と思ったのでした。なにがあなたにそうさせたのでしょう。わかりません。けれど、あなたはそのとき呼び止めました。

あなたは奥さんの背中に言葉を投げかけます。

「なぁ、なんか最近俺と子供たちで差をつけてないか?」

奥さんは振り向き、驚いた表情であなたの顔を見ます。

「なに、子供みたいなこと言ってるの? あなた大人でしょ」

あなたはできるだけ落ち着いた声で話そうと努めます。

「でもさ、この家の大黒柱は俺だし。その俺をあんまりにもないがしろにしてないか?」

奥さんが少し不愉快そうな顔をしました。

「そんなことないでしょ」

あなたは段々と腹立たしくなってきました。

「俺、別に封建主義者でも男尊女卑でもないけど、もう少し俺をたててくれてもいいんじゃないか。子供たちのほうがご飯のおかずが一品多いなんて気分が悪いよ」

あなたは言いながら、自分が情けないことを言っているようで恥ずかしくもありました。しかし、言わずにはいられなかったのです。

奥さんが口を尖らしています。そして黙ってしまいました。…当然です。反論などできるはずはありません。あなたは事実を言っているだけなのですから。あなたはイチゴショートケーキの件についても言ってしまいました。あなたは日ごろの鬱憤が爆発したのです。おでんのことも…。

あなたが言い終わると奥さんは激しい口調で言い返しました。

「仕方ないでしょ! あなたより子供たちのほうがかわいいんだから」

あなたは自分が一家の主として侮辱されたように感じました。もう、我慢の限界です。

「どうして、そこまで馬鹿にされなくちゃいけないんだ! ふざけんな!」

あなたはこうやって結婚生活に失敗します。

結婚生活が長くなると、妻にとって夫は空気と同じになってしまいます。いても見えないのです。見えない相手に気を使う必要はありません。そうなってしまった妻に期待をすることに無理があります。妻にとって子供は分身です。なにしろ自分のお腹を痛めて産んだのですから。自分の分身である子供と、結婚という契約がなくなったなら他人になってしまう夫を比べたなら、「どちらを大切に思うか」はわかろうというものです。

第16回終了。

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