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あなたはこうやって結婚生活に失敗する(13)

11)(12)(13)(14)(15)(16)(17)(18)(あとがき) 女性編

結婚3年

あなたたちは半年の恋愛期間を経て結婚しました。あなたが28才、奥さんが26才のときです。共通の友人の集まりで知り合いました。その集まりには男女それぞれ7~8人がいましたが、あなたは奥さんが一番魅力的に見えました。もちろん、奥さんもそれは同じでした。だからあなたたちは結婚まで進んだのです。

あなたたちが結婚した時期は恋愛関係にある恋人同士としては理想的だったかもしれません。つき合っている期間が長すぎますと、お互いに冷める感情も起こり結婚に至らないケースもあります。また反対に短すぎますと、お互いの欠点を全くわからないまま結婚してしまうことになりますので一緒に暮らし始めてすぐに言い争いが起こることになります。そういう意味で考えますと、つき合った期間が半年というのはちょうどよい期間といえました。

あなたは奥さんの「すぐに感情的になるところ」が、どうにか許せる範囲内であることをわかっていました。また、奥さんもあなたの「ときに優柔不断なところ」が許せる範囲内であることをわかっていました。あなたたちはお互いに思っていました。

「わたしたちの結婚は、地に足が着いた大人の結婚だ」と。

現在、結婚して3年目です。まだ子供はいません。あなたたちは独身貴族を満喫していましたので、結婚後もしばらくの間は「二人の時間を大切にしたい」と考えていたからです。実際、結婚してからもあなたたちの恋愛感情が弱まることはありませんでした。

結婚後も恋愛感情が続いた、というよりも強くなったのはつき合っていた期間が関係しています。そうです。半年の恋愛期間でしたので結婚後もあなたも奥さんも相手に夢中になれたのでした。お互い他の異性のことなど目に入る隙などありませんでした。ちょうど思春期にアイドルに夢中になっている感覚と同じと言ってよいでしょう。まだ飽きることがありませんでした。

思春期の男女がアイドルに夢中になるのはよくあることです。しかし、大概の少年少女は年令を重ねるうちに少しずつ興味をなくしていくものです。それは年令が上がることだけによるものではありません。年数も関係しています。人間は常に「新しいもの」を求める性質があります。それを単純に「悪いこと」と片付けてしまうのはあまりに短絡的です。人間は、自分ではどうにもコントロールできない一面を持った不可思議な生き物だからです。

ある日。あなたは会社の後輩と飲みに行き結婚のコツを尋ねられます。後輩はあなたの結婚をいつも羨ましがっていました。後輩はまだ独身でしたが、それには理由がありました。

後輩は結婚に懐疑的だったのです。女性と結婚して一緒に暮らしていくことに不安を持っていました。

「もし、一緒に暮らして相手の嫌なところを見たら幻滅しないかな…」

あなたは後輩が持っているシンプルで純粋な不安を微笑ましく思いました。

「なるほどね…。わかるね、その気持ち」

そういうとあなたはジョッキに口をつけます。一口飲むとさらに続けます。

「俺もね。独身の頃に考えたね。だから今の女房とは、ある程度欠点を知ってから結婚したんだ」

「やっぱ、欠点ってあるんですか」

後輩は、理想的に見えるあなたたち夫婦にも欠点があることに落胆したようでした。あなたは諭します。

「あのな。人間で欠点のない人なんていないんだよ。だから俺は結婚前に相手の欠点を知っておきたかったんだ」

「欠点なんか知ったら嫌いになりません?」

「甘いな、おまえ。その欠点が相手を嫌いにさせるものというか程度というか、そういうのを前もって確認しておくことが大事なんだ」

「はあ…」

「つまり、アバタもエクボになれるかどうかなんだよ」

あなたは滔々とあなたの結婚観を述べました。

その日、あなたはほろ酔い気分で後輩と別れました。結婚の先輩として後輩にアドバイスをしたことにも酔っていました。演説をした政治家が高揚感に浸っている気分に似ています。あなたは気分よく電車に揺られていました。

あなたが駅から家に着くまで15分です。あなたは歩きながら後輩に言って聞かせた話を思い出していました。

「アバタもエクボ…、大切だよな」

そう言いながら、あなたはここ数ヶ月間の自分の感情を思い起こしていました。

「俺、昔ほどワクワクしてないかも…」

そうなのです。あなたは、ここ数ヶ月間以前に比べて奥さんに対する恋愛感情が薄くなっているのが気になっていました。あなたは以前では考えられませんでしたが、奥さん以外の女性に対して関心を持つようになっていたのです。昔、…といってもまだ2年数ヶ月前ですが、昔でしたら奥さんではないほかの女性のうしろ姿など目で追うことなどはしませんでした。しかし、最近はきれいな女性を見ると興味を抱くことがありました。

あなたは歩きながらひとり呟きます。

「俺、変わったのかなぁ…」

玄関の前に立ち、いつもならそのままドアのノブを回し中に入ります。しかし、その日あなたはインタフォンを押してみました。1度…、2度…。しかしインタフォンから返事はありませんでした。…あなたは自分でノブを回し中に入りました。

玄関の中に入ると台所に奥さんがいる気配がします。あなたは靴を脱ぎ台所に向かいました。奥さんは椅子に座り雑誌を読んでいました。

「インタフォンを押したのに…」

奥さんは不思議そうな顔をしてあなたを見ました。

「だって、あなただってわかったから…」

奥さんが言うには、ドアの外を歩く足音であなただとわかるのだそうです。しかし、あなたにとっては、それは理由にはなりません。「俺だと出ないのか?」と言いかけましたが、あなたは口には出しませんでした。その代わり、会社の新入女性社員を思い出していました。

あなたの仕事は営業です。毎日、顧客を回り汗を流しています。そんなあなたが会社に戻ると新入女性社員はいつもにこやかな笑顔で迎えてくれます。

「お疲れ様です。ご苦労様でしたー!」

次の休みの日に、あなたは同僚とゴルフに行くことになりました。あなたとしては奥さんに対して申し訳ない気持ちがなくはありませんでした。自分一人で出かけることにやましさが少しばかりあったからです。あなたは申し訳なさそうに奥さんにお伺いを立てました。しかしあなたの心配とは裏腹に、奥さんは不機嫌になるでもなく普通に答えます。

「ちょうどよかった。私も学生時代の友だちと会う約束したのよ」

あなたは肩透かしを食らった気分です。

…その日のスコアはあまりいいものではありませんでした。

あなたがゴルフから戻ると家の電気はまだ点いていませんでした。あなたは自分で鍵を開け電気を点け冷蔵庫の中を見ました。冷蔵庫にはご飯のおかずになりそうな食品はなにもありませんでした。仕方なくあなたは即席ラーメンを作り食べます。そこへ奥さんが帰ってきました。

「ごめんねぇ。ラーメン食べてるの? ちゃんと作れた?」

奥さんは機嫌よさそうにあなたに話しかけてきました。奥さんは着替えてくるとあなたに友だちとの楽しかった会話を聞かせてくれました。とても楽しそうに話してくれました。そのときの笑顔は最近では見られない笑顔でした。「最近」なのです。以前はあなたと一緒にいるときはいつも見せていた、その笑顔です。

ある日、会社で飲み会がありました。あなたの課の親睦を計る意味で課長が提案した飲み会です。だいたいこのような趣旨の飲み会は課長が飲みたいときに行われます。つまりは課長がコツコツ貯めた交際費がある程度貯まったときに催されます。出席するのは課の半分くらいでしょうか。以前のあなたでしたら会社でのこうした飲み会に参加することはほとんどありませんでした。会社の同僚と飲むよりは奥さんと一緒にいたほうが楽しかったからです。しかし、最近のあなたは出席するようになっていました。

飲み会も中ごろになった頃、あなたの前の席に新入女性社員がやってきました。いつもの笑顔で話しかけてきました。

「お噂は聞いております。先輩はすごい恋愛で結婚したそうですね。それに奥様もおきれいな方のようで…」

飲み会では盛り上がるのがお約束です。あなたは新入女性社員に話を合わせます。

「おお、うれしいこと言ってくれるねぇ。俺、今でも奥さんと大恋愛中ー!」

大きな声で叫ぶように言いました。それに合わせるように隣に座っていた後輩も一緒になって叫びます。

「ホント、先輩たちは僕の理想の夫婦ですー!」

飲み会のあと、あなたは電車の中で虚しさを感じていました。

「奥さんと大恋愛中、か…」

マンションに近づいたところであなたは立ち止まり家の窓を眺めます。電気は点いていません。

あなたはドアの鍵を開け中に入ります。台所の豆電球だけが小さく点灯していました。あなたは寝室に行きます。奥さんが寝息を立てていました。

次の休みの日。奥さんは友だちと美術館に行きました。朝、出かけるとき奥さんは楽しそうに鼻歌を歌いながら玄関を出て行きました。

「じゃ、行ってきま~す」

あなたは台所で奥さんの声を聞きながらテレビを見ていました。

午後になり、あなたはレンタルビデオ店に行きます。店内は若い人で賑わっていました。あなたは別に見たいビデオがあって来たわけではありません。時間を持て余していただけです。あなたはなにを探すでもなくただ漠然と店内を見て回ります。

店内はコーナー別にきれいに分かれていました。そんな店内を歩いていて、あなたは「恋愛」と書かれたポップがかかっているコーナーの前で立ち止まりました。

「恋愛か…」

あなたはひとり言を言うと、丁寧に一つ一つタイトルを見ました。昔見たロマンティックなタイトルを見ていると、あなたは青春時代の思いがこみ上げてきました。

帰り道、あなたが手にしていたのは「ゴースト ニューヨークの幻」です。あなたの記憶では、この映画は結婚する前、奥さんとつき合っていた当時、二人で見た映画です。このときあなたも奥さんも目に涙をたくさん浮かべお互いを見つめ合い手を握り締め合ったのでした。

次の日。あなたが出勤の準備をしていると、同じように会社に着て行く洋服を選んでいた奥さんが話しかけます。

「あなた。ゴーストなんか借りてきたの?」

「ああ…。なんとなく懐かしくて…」

「へぇー。あなたってまだロマンティストなんだ。昔から男のほうがそうだって言うわよねぇ」

奥さんの声が笑っているのがわかりました。

あなたは返事をしませんでした。奥さんも特に返事を期待していたわけではありません。ただ言葉を発しただけです。先に家を出るあなたは玄関から奥さんに声をかけます。

「なぁ、今日外で一緒にご飯食べようか?」

あなたの問いかけに一瞬驚いた奥さんでしたが、寝室から顔だけを出し笑顔で返事をしました。

「どういう風の吹き回し? ゴーストの影響かな。でもいいわよ」

あなたも笑顔で玄関を出て行きました。

その日。あなたは仕事が終わり会社の外に出ると奥さんに携帯電話を入れました。待ち合わせ場所を決めるためです。奥さんはすぐに出ました。

「結婚前にデートしていたとき、いつも待ち合わせていた場所で待ってるから」

あなたの指定した場所に奥さんの声が弾んでいるのが伝わってきます。

「了解~。少し遅れるかもしれないけど…。ごめんねぇ」

あなたには奥さんの喜んでいる笑顔が想像できました。

あなたは待ち合わせ場所に行く前に花屋に寄ります。つき合っていた当時、送ったことがある花を包みました。あなたは花束を手に抱え、当時いつも待ち合わせていた場所に立ちます。あなたは自分の気持ちが華やいでいるのを感じていました。

あなたの目の前をたくさんの人が通り過ぎて行きます。そうした中、あなたは恋人同士と思える男女が仲良く歩いている姿が目につきました。たぶん、普段ならあまり目につかなかったでしょう。しかし、そのときは恋人たちばかりが目に映っていました。あなたはそうした恋人たちにかつての自分たちを重ね合わせていました。

しばらくすると、あなたの携帯電話がなります。奥さんからでした。

「あなた、ごめん。どうしても仕事が片付かないの。悪いけど今日はキャンセルにさせて」

あなたは一瞬声を詰まらせました。しかし、すぐに思いなおしできるだけ明るく返事をしました。

電話を切り花束に目をやります。…あなたはあたりを見渡しました。少し離れた場所に女性が一人で立っていました。あなたは女性に近づき声をかけます。

「これ、よかったらどうぞ」

あなたは花束を手渡すと待ち合わせ場所を立ち去りました。

それから2週間後、仕事から帰ると奥さんが珍しく先に帰宅していました。最近は、あなたより奥さんのほうが帰宅時間が遅くなっていました。晩ご飯も一緒に食べたことはありません。

あなたがスーツを脱ぎリビングのソファに座ると、奥さんがお茶を持ってきました。

「話があるの」

奥さんの顔を見ますと、表情が硬くなっているのがわかりました。

「私…、ヘッドハンティングされてるの」

「ヘッドハンティング?」

あなたの驚いた表情を見ながら奥さんは続けます。

「先々月くらいから誘われてて…、ずっと悩んでいたんだけど今の話受けようと思う…」

「ヘッドハンティングって、突然言われても…」

あなたが戸惑うのも当然です。しかも奥さんの話では、新しい職場はなんとアメリカになるということでした。

「じゃぁ、単身赴任するのか?」

あなたはこのように言うしかありません。奥さんの転職に合わせてあなたが会社を退職したのでは笑いものになってしまいます。奥さんはあなたの質問に答えることはせず、ただうつむきました。あなたはしばらく考えたあと尋ねます。

「おまえ、仕事好きか?」

少し間が空いたあと奥さんは答えます。

「うん。今、仕事が楽しくて仕方ないの。あなたには悪いと思うけど自分の人生を生きてるって感じ…」

あなたは奥さんを見据えさらに質問します。

「もし、仕事と俺、どっちを取る? と聞かれたらなんて答える?」

奥さんは首をかしげ腕組みをしました。あなたはあなたで、奥さんが答えたあとの「あなたの答え」を探していました。奥さんの答えによってはあなたも決断しなければならないからです。

しばらくして、奥さんは姿勢を正しあなたの目を見つめました。

「ごめんね…。仕事…かな」

今度は、あなたが腕組みをし首を傾けました。あなたの仕草を見て奥さんは小さな声で謝ります。

「すみません…」

“ごめんね”ではなく“すみません”。この他人行儀な言葉遣いがあなたに踏ん切りをつけさせました。

あなたは背中をソファにもたれ、腕組みを外した両手を頭の後ろで重ねゆっくりと話し始めました。

「なんか、最近、俺、考えてたんだよ。俺たちの関係って昔と変わっちゃったよなぁって。別におまえを責めてるんじゃないんだ…」

奥さんは落ち着いた声で問いかけました。

「私たちの関係って?」

「なんて言うか…、カッコつけて言えば、愛…かな」

あなたは、本当は「愛」などという陳腐な言葉は面映くて使いたくありませんでした。けれど、それ以外に言葉が見つからなかったのです。あなたの答えに奥さんが自分の思いを語ります。

「そうね。私も最近思うことあるの。愛情がなくなったわけじゃないんだけど、昔みたいに燃える気持ちはなくなったわね」

あなたは奥さんの冷静な物言いにダメ押しをされたような気分になります。

「そうだよなぁ…。愛って長続きするものじゃないよな。…映画と現実は違うよなぁ…」

あなたはひとり言のように呟きます。しばらくの沈黙のあとあなたは奥さんに向かって言います。

「ここで…一区切りつけようか」

奥さんは声は出さずにゆっくりと頷きました。

あなたはこうやって結婚生活に失敗します。

若い時の恋愛は感情の赴くままですが、それはそれで悪くはありません。例え、周りから勘違いと言われようとそうした体験をすることは貴重な財産となります。勘違いは人間としての幅を広げるための肥やしになります。また、愛を全うできなくなったとしても気にする必要はありません。ドラマの主人公と違い、現実の世界で生きているあなたは、愛が長続きをしなくとも不思議でもなんでもありません。

第13回終了。

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