ロリポ広告




スポンサーリンク

あなたはこうやって結婚生活に失敗する(14)

11)(12)(13)(14)(15)(16)(17)(18)(あとがき) 女性編

結婚5年

あなたたちは1年間つき合ったあとに愛を実らせました。ある意味、最も一般的な「恋愛から結婚への道のり」と言えます。奥さんとは、ものごとに対する考え方も似ている部分が多く、あなたは「結婚相手に相応しい女性だ」と納得していました。

あなたは人を押しのけ働いてまで出世したいとは思わないタイプのビジネスマンでした。奥さんもそうした考えに同調する考えを持った女性でした。

あなたは「他人を押しのけて」働くことを望んでいませんでしたが、かと言って「そこそこ働く」ことで済まそうなどとも考えていませんでした。仕事に対しては全精力を傾けて臨むのがビジネスマンのあるべき姿だと考えていました。

そんなあなたたちの結婚生活は1年目までは理想に近い楽しい日々でした。あなたと奥さんは仕事帰りに待ち合わせて食事をしたりコンサートに行ったり恋人時代の延長として過ごしていました。それはそれは充実した結婚生活でした。

新生活をはじめた住居は2DKのアパートです。若い二人ですのでまだお給料も「それほど多くない」こともありましたし、なにより夫婦二人きりの生活ですから広いスペースなど必要ありませんでした。また、夫婦共に働いていましたので生活する分については収入的には全く問題ありませんでした。というよりは二人の収入を合わせると余裕のある生活が営めました。だからこそ、仕事帰りに食事をしたりコンサートに行ったりなどできたのです。

そんな二人の甘い生活に転機が訪れたのは2年目のことでした。それはお子さんの誕生です。出産に際しいろいろな面倒なことが起こり始めます。まず、奥さんが退職を迫られたのです。大企業のように、福利厚生が充実している職場ならいざ知らず、奥さんが勤めていたのは中小企業です。奥さんに育児休暇など与える余裕などない会社です。あなたたちは会社の都合も理解できましたのであっさりと「退職要請」に応じることにしました。その時点ではあなたも奥さんもその重大さに気がついていませんでした。

しかし、奥さんが出産を終え平常の生活がはじまると、差し当たって毎月の収入の減少具合が気になりだしました。なにしろ今までのダブルインカムがシングルインカムになってしまうのですから当然です。妊娠から出産までの間は収入が減ることについてさほど気になることはありませんでした。自分たちの子供が生まれることの喜びで気持ちが一杯だったからです。また、それまでの貯金がありましたので気持ちに余裕があったのです。

しかし、出産後半年を過ぎた頃から貯金の残高が気になりだしました。そして少しずつ焦りだします。あなたと奥さんは話し合って奥さんがパートに出ることを考え始めます。そして現実を知ります。

簡単に仕事が見つからないのです。どこの採用面接でも子供が小さいことがネックとなりました。企業側としては、お子さんが小さいということはすぐに休むことを連想します。実際、お子さんは熱を出すことが多く奥さんが付き添っていなければならないことが度々ありました。もし採用されることになっても休みをとったり早退するケースが多くなることが予想されます。奥さんが勤めに出ることは現実的ではないと思われました。仕方なく奥さんは専業主婦の道を続けることにします。

その頃からでしょうか。奥さんがあなたの給料の額を気にするようになりました。

奥さんは毎日家計簿とにらめっこをしつつあなたに愚痴を言うようになります。

「ねぇ、もう少しお給料上がるようにならない?」

あなたには辛い言葉です。

「そんなに簡単に無理だよ」

あなたはこう答えるしかありません。

奥さんは専業主婦をやっていますと、好むと好まざるに関係なく自然と公園などでほかのお母さんたちと親しくなります。そしてその中の気心の合うお母さんとお友だちになります。これは決して悪いことではありません。奥さんにとっては育児について相談する相手がいることはとても意義のあることでした。そして周りのお母さんたちと親しくなればなるほど段々と育児以外のことについても話すようになります。

奥さんは親しくなったお母さんたちと家の行き来もするようになります。そうしたお母さんの中には立派な家に住んでいる人もいたりして奥さんは羨ましがるようになりました。奥さんは晩ご飯を一緒に食べているあなたに聞こえるように呟きます。

「私たちももう少し広い家に住みたいわよねぇ」

あなたたちの家の間取りは2DKですが、6畳と4畳半に台所が4畳しかありませんでした。お風呂もありましたが、一人がやっと入れるほどの広さしかなくお子さんと一緒に入るには狭すぎました。奥さんはいつも身を縮めてお風呂に入っていました。

奥さんはお風呂から上がるといつも

「あのお風呂は家族向きではないわ」

と言うようになっていました。そういうときあなたはいつも聞こえないふりをしていました。あなたは心を縮めて過ごしていました。

5年目を迎えた今、あなたたちはまだ結婚当初に入居したアパートに住んでいました。これまでに幾度か広い家に転居することも考えましたが、そのたびに収入が壁になっていました。家賃を支払うにはお給料が少なすぎるのです。不動産屋さんからの帰り道、決まって奥さんは「私たち進歩がないわね」と言うのが口癖になっていました。実は、あなたは奥さんのこの口癖が好きではありませんでした。あなたには奥さんが言う「私たち」が「あなた」に聞こえてくるからでした。

「あなた進歩がないわね」

あなたにはそう聞こえたのです。けれど、あなたは改まって返事をすることは差し控えていました。

奥さんは「進歩がない」と言いますが、お子さんが生まれてから3年間、あなたのお給料が増えなかったわけではありません。それなりに増えてはいました。しかし、子供が大きくなるに従い出費も増え、その分お給料の増加分を目減りさせていました。結果的に、広い間取りの家に住めるほどには増えていませんでした。

ある日、晩御飯を食べたあと奥さんと一緒にテレビを見ていたとき奥さんが話しかけてきます。最近は、奥さんがあなたに話すことといえば、それはほとんど公園でのお母さんたちの会話についてでした。

「最近、公園に行くの辛いのよね」

あなたは理由を尋ねます。

「どうして?」

「公園で会うお母さんたちのご主人ってみんな出世してるみたいなの」

奥さんは答えながら視線を決してあなたのほうには向けようとはしませんでした。奥さんも自分の言っていることに少し後ろめたさを感じていたからです。

あなたはやはり返事をしませんでした。

ある日。あなたが会社から帰ってくると奥さんもお子さんもいませんでした。あなたは奥さんに携帯電話をかけます。

奥さんはすぐに出ました。そして「すぐに帰る」と告げました。あなたはとりあえずスーツを着替え奥さんの帰りを待ちます。

しばらくすると奥さんが帰ってきました。そのとき、奥さんの表情がイラついているのがわかりました。

「どうした? なにかあったのか?」

奥さんはなにも言わず、晩ご飯の準備を始めました。仕方なくあなたはお子さんと遊んで待つことにしました。

晩ご飯の準備が終わり食べ始めますと、奥さんが突然に話しはじめます。

「なんか今の生活、貧乏くさいわよねぇ」

あなたは奥さんの顔を覗き込みます。

「どうした?」

奥さんは、あなたが帰ってくるまでお友だちの家にいたそうです。そして、自分たちの生活との違いを思い知らされていたのでした。奥さんは、お友だちが持っているブランド品の洋服やバッグなどを見せられたのでした。たぶん、お友だちも決して見せびらかすつもりはなかったのでしょう。女性の性向として自分の洋服や装飾品を他人に見せたりすることはよくあることです。しかし、ときとしてその何気ない言動は見せた相手の心に波風を立たせます。

「最近、仕事の調子はどうなの?」

奥さんはまるでビジネスコンサルタントのように突然の質問をしてきました。あなたは曖昧に答えました。

「まあまあかな…」

「お仕事頑張ってね。そしてお給料がたくさんもらえるように出世して」

昔なら、奥さんは決してこのような台詞は口にしなかったでしょう。しかし、最近はこのようなニュアンスの台詞を口にすることが多くなっていました。

あなたは、今までなら奥さんのそうした台詞はやり過ごしていました。しかし、最近の度重なる奥さんのそうした発言にあなたはつい言い返してしまいます。

「なんか最近のおまえ、昔と変わったよな」

「そうかしら…。私は自覚ないけど」

あなたは奥さんの話し方が気に入りませんでした。「うすらとぼけた」言い方だったからです。あなたはつい強い口調になりました。

「つき合っていた当時、俺たちは人生観が一緒だったろ。もう忘れたのか?」

「なんのこと?」

「お金や出世なんかより、人生にはもっと大切なものがあるって言ってたじゃないか」

あなたはしゃべりながら少し気恥ずかしさも感じていました。若いアイドルが歌う歌詞に出てきたり青春ドラマの主人公が口にしそうな言葉のように感じていたからです。

奥さんは言います。

「なんか青白いこと言うのね。でも、現実問題としてお金がないと満足な生活できないのよ。青春ドラマみたいなこと、その年になって言わないでよ」

あなたは箸を置きます。

「おまえ、本当に変わったな…」

あなたは奥さんを見下した目つきをしていたかもしれません。そのことが奥さんの心を尚更苛立たせました。

「あなた、現実を見て。私のお友だちの生活を見ているとお金は大切なもので必要なものなの。そのためには会社で出世する必要もあるし、友だちの旦那さんは転職してお給料3倍になってるのよ」

「そういう生き方を否定していたのがおまえだろ。だから俺は結婚したんだ」

あなたはそういうと勢いよく外に出て行きました。

結局、その日あなたは深夜遅くにこっそりと帰ってきました。別に飲みに行ったわけではありません。ただ、昔と変わってしまった奥さんと同じ空気を吸っているのが嫌だったのです。深夜の街を歩き回っていました。

あなたは、奥さんが目覚める前に会社に向かいました。

あの日の出来事はあなたたち夫婦の関係に溝を作ってしまいました。もし、どちらかが折れたなら二人の関係は修復されたかもしれません。しかし、あなたは奥さんを許すことができませんでした。奥さんを許すことはあなたの人生観を変えることになるからです。

奥さんにとってもあなたを受け入れることができませんでした。いつまでも青春時代と変わらない考えでいるあなたと一緒に暮らすことはできないと考えていました。

いつしかあなたたちは会話をしなくなりました。もちろん寝室も別々になりました。奥さんはお子さんと6畳間に寝て、あなたは4畳半の部屋に寝るようになりました。家庭内は寒々とした雰囲気が漂っていました。夫婦の関係が悪化しているのはお子さんにも悪い影響を与えます。お子さんはあまり笑わなくなりました。無邪気さもなくなったように感じます。

あの日から3ヵ月後、あなたは覚悟を決めて奥さんに伝えます。

「俺たち、もう限界だよな。子供にもいい影響ないし。結婚生活、解消しようか」

あなたはこうやって結婚生活に失敗します。

同じものを見て同じように感じる、思う。言葉を変えるなら「価値観が同じ」と言えるでしょう。最初は同じ価値観を持っていた二人がときの流れとともに少しずつずれて行く。これは仕方のないことです。人は、ときが流れ年を重ねるにつれて変わっていきます。その間に、たくさんのいろいろな経験をすることによって影響を受けるからです。これは「いい」「悪い」の問題ではありません。ただ一つ言えることは、若い頃に感じる「価値観の一致」はあてにできないということです。

第14回終了。

11)(12)(13)(14)(15)(16)(17)(18)(あとがき) 女性編

ロリポ広告

スポンサーリンク




シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする